「歌に生き愛に生き Vissi d’arte, vissi d’amore」は、ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Puccini, 1858-1924)作曲のオペラ『トスカ Tosca』の第2幕でトスカが歌う有名なアリアです。恋人のために苦しみを背負ったトスカが、神に対する報われない思いを歌い上げています。
数あるソプラノのアリアのなかでも美しく歌い上げられる名曲として知られています。
20世紀の偉大なオペラ歌手であるマリア・カラスは、トスカを何度も演じました。第2幕の「歌に生き愛に生き」を歌っているカラスの貴重な映像として残されています。
※日本では「歌に生き恋に生き」というタイトルが一般的ですが、amoreは神への愛という意味であることから、ここでは「歌に生き愛に生き」としています。
プッチーニ『トスカ』の概要とあらすじ
『トスカ』は、フランスの劇作家ヴィクトリアン・サルドゥ(Victorien Sardou, 1831-1908)の『トスカ』が原作です。全3幕で、ルイージ・イッリカとジュゼッペ・ジャコーザが台本を担当しますが、完成に至るまでには何度も論争が起きたといわれています。
3年もの年月をかけて完成した作品は、1900年1月14日にローマのコスタンツィ劇場で初演されました。『トスカ』の初演は大成功となり、オペラの代表的な作品に位置付けられています。
物語の舞台は、1800年6月のローマ。
共和制が崩壊したローマでは王政のもとで恐怖政治がおこなわれていました。共和主義者のアンジェロッティは脱獄し、逃げ込んだ教会で同志の画家カヴァラドッシに出会います。
カヴァラドッシは、アンジェロッティを自分の隠れ家に案内します。
一方、アンジェロッティを捜索している警視総監のスカルピアは歌姫のトスカを見つけ、恋人のカヴァラドッシのもとへ行くように仕向けました。
アンジェロッティは取り逃がしたものの、カヴァラドッシは捕えられてしまいます。スカルピアは彼を拷問にかけますが、彼は口を割ろうとしません。そこでトスカを呼び、恋人が拷問される姿を見せると、トスカは堪らず隠れ場所を教えてしまったのです。
そこに伝令が現れ、ナポレオンの勝利を知らせると、カヴァラドッシは喜びをあらわにし、スカルピアの怒りを買ってしまいます。
カヴァラドッシに死刑が宣告されると、トスカは「彼を助けてください」とスカルピアに懇願します。スカルピアは「自分に身を捧げるなら助けてやろう」といい、絶望に包まれたトスカは「歌に生き愛に生き」を歌います。
スカルピアは部下のスポレッタに、意味ありげに「見せかけの処刑をするよう」に命じます。そして、スカルピアがトスカを自分のものにしようとした瞬間、トスカは部屋にあったナイフをスカルピアに突き刺しました。
トスカは、スカルピアから奪った通行証を持ってカヴァラドッシのもとに向かいます。事の顛末を話し、見せかけの銃殺刑が終わったら一緒に逃げましょうと伝えます。
ところが、処刑が執行されて彼のもとに近づくと、本当に彼は死んでいたのです。スカルピアに騙されたことを知ったトスカは、城壁から身を投げてしまうのでした。ここで幕が降ります。
「歌に生き愛に生き」原曲歌詞と日本語訳
Vissi d’arte, vissi d’amore,
non feci mai male ad anima viva!…
Con man furtiva
quante miserie conobbi, aiutai…
私は歌に生き、愛に生きてきました
悪いことをしたことなど一度もありません
私が知り合った貧しい人たちには
そっと手を差し伸べ、助けてきました
Sempre con fe’ sincera,
la mia preghiera
ai santi tabernacoli salì.
Sempre con fe’ sincera
diedi fiori agli altar.
いつでも誠実に信仰し
私の祈りは
聖者の聖者の祭壇へと昇っていきました
いつでも誠実に信仰し
祭壇に花を手向けました
Nell’ora del dolore
perché, perché Signore,
perché me ne rimuneri così?
それなのに、この悲しみのときに
神よ、なぜ、なぜなのですか?
どうして私にこのような報いを与えるのですか?
Diedi gioielli della Madonna al manto,
e diedi il canto agli astri, al ciel,
che ne ridean più belli.
私は聖母マリア様のマントに宝石を捧げました
そして、天の星に歌を捧げました
すると、星たちはより美しく輝きました
Nell’ora del dolore
perché, perché Signore,
perché me ne rimuneri così?
それなのに、この悲しみのときに
神よ、なぜ、なぜなのですか?
どうして私にこのような報いを与えるのですか?