オペラ

狂乱の場・彼の優しい声が『ランメルモールのルチア』より 歌詞の意味・解説

引用:The Metropolitan Opera

「狂乱の場・彼の優しい声が Il dolce suono」は、イタリアのガエターノ・ドニゼッティ(Gaetano Donizetti, 1797-1848)作曲のオペラ『ランメルモールのルチア Lucia di Lammermoor』の第2部第2幕でルチアが歌うアリアです。

血まみれの姿で錯乱しながら歌うこの「狂乱の場」は、19世紀前半のイタリアで流行したもので、そのなかでも頂点の作品と言われています。

「狂乱の場」は、超絶技巧で歌われるため、ソプラノのコロラトゥーラ(技巧派歌手)にとっては大きな見せ場となっています。

ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』の概要とあらすじ

『ランメルモールのルチア』は、スコットランドの作家ウォルター・スコット(Walter Scott, 1771-1832)の小説『ラマムアの花嫁 The bride of Lammermoor』が原作です。1669年にスコットランドで実際に起きた事件を小説化したものです。

オペラ『ランメルモールのルチア』は、1835年にイタリア・ナポリのサン・カルロ劇場で初演され、上演は大成功を収めました。

物語の舞台は、17世紀のスコットランド。

ランメルモールの領主エンリーコは、妹のルチアを貴族のアルトゥーロと政略結婚させようとしていました。しかし、ルチアは宿敵であるレイヴンズウッド家のエドガルドと愛し合っています。そんななかで、エドガルドがフランスに出発することになったと告げ、二人は結婚を誓い、指輪を交換するのでした。

エンリーコは別れを告げるエドガルドの偽の手紙を妹ルチアに見せ、アルトゥーロとの結婚を承諾させようとします。絶望したルチアはエンリーコに同意してしまいました。

婚礼の日、ルチアが結婚の誓約書に署名したとき、式場にエルガルドが現れてルチアを奪おうとします。しかし、ルチアが署名した誓約書を突きつけられ、裏切られたと思ったエドガルドは交換した指輪を投げつけてしまうのでした。

エドガルドの城にエンリーコが訪れ、決闘を申し込みました。エドガルドはそれを受け入れます。

引用:The Metropolitan Opera

一方、エンリーコの城では結婚の祝宴が続いています。そこへルチアがアルトゥーロを刺し殺したことが告げられました。すると、花嫁姿のまま血まみれになったルチアが現れます。ルチアは正気を失い「狂乱の場」を歌います。そして悲しみのなかで息を引き取りました。

ルチアの死の知らせを受けたエドガルドは、天国での再会を願いながら剣を胸に刺し、ルチアの後を追ったのでした。

「狂乱の場」原曲歌詞と日本語訳

『ランメルモールのルチア』はイタリア語版とフランス語版がありますが、ここではイタリア語版を紹介します。

<Il dolce suono 彼の優しい声が>

Il dolce suono
Mi colpì di sua voce!…
Ah! quella voce
M’è qui nel cor discesa!…

彼の優しい声が
私の心に響いているの!
ああ!あの声が
私の心に降りてきたの

Edgardo! Io ti son resa:
Edgardo! Ah! Edgardo mio!
Sì, ti son resa!
Fuggita io son da’ tuoi nemici…

エドガルド!私はあなたのものよ
エドガルド!ああ、私のエドガルド!
私はあなたのものよ
だから、あなたの敵から逃げてきたの

Un gelo mi serpeggia nel sen!…trema ogni fibra!…
Vacilla il piè!…
Presso la fonte, 
meco t’assidi alquanto…

冷気が胸のなかを這い回っているの
血管が震えているわ!
足がふらつくの
だから噴水のそばで一緒にいてほしいの

Ohimè!… Sorge il tremendo
fantasma e ne separa!
Ohimè! Ohimè!
Edgardo!… Edgardo! Ah!
Il fantasma, il fantasma ne separa!…
Qui ricovriamo, Edgardo, a piè dell’ara…
Sparsa è di rose!…
Un’armonia celeste

ああ!恐ろしい亡霊が現れたわ
私たちを引き離そうとしているのよ!
ああ!ああ!
エドガルド!エドガルド!
亡霊が、亡霊が私たちを引き離そうとしているわ!
逃げましょう、エドガルド、祭壇の下に…
薔薇が散らばっているわ!
天国の調べよ

Di’, non ascolti? Ah, l’inno suona di nozze!… 
Il rito per noi s’appresta!…
Oh, me felice!
Oh, gioia che si sente, e non si dice!

ねえ、聞こえるでしょう?ああ、あれは婚礼の歌よ!
私たちの婚礼の準備をしているんだわ!
ああ、私は幸せね!
言葉に表せないほどの喜びよ!

Ardon gl’incensi… splendono
Le sacre faci, splendon intorno!…
Ecco il ministro!
Porgimi La destra….
Oh lieto giorno!

香が焚かれて…
あたりは神聖な灯火で輝いている!
ほら、司祭様がきたわ!
あなたの右手を出して
なんて幸せな日なのかしら!

Alfin son tua, sei mio!
A me ti dona un Dio…
Ogni piacer più grato
Mi fia con te diviso
Del ciel clemente un riso
La vita a noi sarà!

ついに私はあなたのもの、あなたは私のものよ!
神が私にあなたを与えてくれたのね…
何ものにも勝る喜びを
あなたと分かち合うの
慈悲深い天からの祝福を受けて
人生は私たちのものになるのね!

引用:The Metropolitan OperaLucia di Lammermoor:Mad Scene (Natalie Dessay)