どんより暗い空にシトシト降る雨。
雨の日は、出かけるのも億劫で気持ちもしんみりしてしまいますね。
そんな雨の日も楽しみになるような、雨をモチーフにしたクラシック曲をご紹介します。
雨だれ/ショパン
前奏曲「雨だれ」(雨だれの前奏曲/雨だれのプレリュード)は、ショパンがスペインのマジョルカ島に滞在していた間に作曲されました。
ショパンと当時の恋人ジョルジュ・サンド(本名:オーロール・デュパン)は、パリの喧騒から逃れるため、そして病弱だったショパンの静養もかねてマジョルカ島に滞在します。本来は温暖な気候のマジョルカ島ですが、ショパンが滞在していたのはちょうど冬で、雨の多い時期でした。お気に入りのプレイエルのピアノで、「雨だれ」を含む24の前奏曲を作曲しました。
優しいメロディと均一に連続する低音の響きが、振り落ちる雨音を表現しています。
中盤はメロディラインが低音に移り重々しい曲調になりますが、冒頭からの連続するテーマはそのまま続いています。
憂鬱な雨もショパンの手にかかるとこんなに美しい音色になるんですね。
水の戯れ/ラヴェル
この曲はモーリス・ラヴェルがパリ音楽院在学中に、当時の師であったガブリエル・フォーレに献呈した曲です。「水にくすぐられて笑う河神」という詩の一節が掲げられ、「水の戯れ」という題名通り、自由に流れ動く水の情景を表現しています。
ちなみに私はこの曲を携帯のアラームにしています。
適度に静かに始まり(急に鳴ってもびっくりしない)、適度に激しくなっていく曲調は、朝目覚めるのにぴったりなのです。
雨の庭/ドビュッシー
クロード・ドビュッシーのピアノのための曲集「版画」より第3曲「雨の庭」です。
この曲は「ねんねよ、坊や Dodo l’engant do」「もう森にはゆかないよ Nous n’irons plus au bois」という2曲のフランス童謡のモチーフが引用されています。
ショパンの情緒的で優雅な「雨だれ」と大きく異なり、細かな雨粒がパラパラと激しく降り注ぐようなイメージです。途中で雄大な情景をイメージしたようななだらかな曲調に変わりますが、その後はまた激しさを取り戻します。
ドビュッシーのピアノ曲は、終盤はクライマックスに向けて大胆かつ優雅に盛り上がり、消え入るように終わる曲が多い中、この曲のように最後は駆け足で上り詰めてフォルテッシモで終わる曲は珍しいのはないでしょうか。
ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」/ブラームス
ブラームスが作曲したこのヴァイオリン・ソナタ第1番は、第3楽章の冒頭部分の主題にブラームス自身が作曲した歌曲「雨の歌Regenlied」の主題が用いられていることから、このヴァイオリン・ソナタも「雨の歌」と呼ばれています。
これは単に雨の情景を表現しているのではなく、ブラームスのクララ・シューマンへの深い愛情が詰まった愛の曲なのです。
原曲となる歌曲「雨の歌」の作詞者であるクラウス・グロードをブラームスに紹介したのはクララ・シューマンでした。ブラームスはその詩にメロディをつけて歌曲にして、クララの誕生日に捧げたと言われており、クララはこの曲を大変気に入っていたそうです。そういったことことから、このヴァイオリン・ソナタ第1番にもクララが好きだった「雨の庭」のメロディを使うことで、クララへの想いを表現していると言われています。
歌曲のモチーフが使われている第3楽章が有名ですが、第1楽章・第2楽章も大変美しい曲です。
ブラームスのクララ・シューマンへの愛
クララ・シューマンはブラームスの恩師であるロベルト・シューマンの妻であり、自身も有名なピアニストとして活躍していました。
クララはロベルタの恩師フリードリヒ・ヴィークの娘で、すでに少女の頃からピアニストとしての才能を認められ「第二のモーツァルト」と呼ばれるほどでした。9歳年上で当時まだ音楽家として活躍していなかったロベルトとの結婚は親に猛反対されます。
ブラームスとクララが出会ったのは、ブラームスが20歳、クララが34歳の頃です。
ロベルトとクララは若きブラームスの才能をいち早く見出し家族ぐるみでの交流が始まりましたが、14歳年上で教養と才能を備えたクララに対してブラームスは恋心を抱きます。
ロベルトが自殺を図り入院した時、ロベルトが亡き後も、クララが演奏活動などで不在の時には、ブラームスが7人の子供達の世話をするなどして献身的にクララを支えていました。
二人が恋愛関係にあったかどうかはわかりませんが、生涯無二の親友・理解者として、二人の交流は晩年まで続きました。
クララが亡くなった知らせを聞いたブラームスは、慌てていたために行き先の違う汽車に間違えて乗ってしまい、葬儀に間に合わなかったそうです。そしてクララが亡くなった11ヶ月後、あとを追うようにブラームスもこの世を去りました。
ヴァイオリン・ソナタ第1番 第1楽章〜第3楽章まで続けて聴けます。
第3楽章だけ聞きたい方はこちらの動画をどうぞ
こちらは原曲の歌曲「雨の庭」です。
ヴァイオリン・ソナタ第1番 第3楽章と聴き比べてみてください。
春の雨 /グリーグ
北欧のショパンと呼ばれるエドヴァルド・グリーグは数多くのピアノ曲を作曲しましたが、歌曲も作曲しています。
こちらは「春の雨(Foraarsregn)」という曲で「6つの詩による歌曲 Op.49」の第6曲です。
作詞者はデンマーク出身のホルガー・ドラックマン(Holger Drachman)で、この曲もデンマーク語で歌われています。