クラシック名曲

シューベルト『アヴェ・マリア』より 歌詞の意味・解説

『アヴェ・マリア Ave Maria』は、フランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797-1828)作曲の歌曲で、世界中で愛されている名曲のひとつです。シューベルトがこの曲を作曲したのは1825年、彼の晩年にあたる時期です。

この曲は、シューベルトが創作のピークを迎えていた時期の作品であり、もとはドイツの詩人、ヴァルター・スコットの詩に基づく「エレンの歌 第3番」(Ellens Gesang III, D839)として作曲されましたが、その祈りの内容から『アヴェ・マリア』の名で広まりました。

オペラのアリアとは異なり、シューベルトの『アヴェ・マリア』は、厳かな祈りと優雅な旋律で、歌手と聴き手の心に静かな感動を呼び起こします。ソプラノやテノールなど幅広い声域で歌われ、多くのアーティストによって演奏されています。

多くの映画やドラマの挿入歌としても使用され、結婚式の入場曲、葬儀での追悼の場面など、人生の節目や大切な儀式の際に演奏されることが多い曲です。

シューベルト『アヴェ・マリア』の概要とあらすじ

シューベルトの『アヴェ・マリア』は、もともとイギリスの詩人ウォルター・スコットの物語詩『湖上の美人』の一場面を題材に作曲された作品です。

この場面では、主人公エレンが聖母マリアに向けて祈りを捧げています。エレンは、反乱軍の指導者である父と共に追われる身で、逃亡中に未来への不安と恐怖から聖母マリアの救いを求めています。

この「アヴェ・マリア」という言葉は、カトリック教会での「めでたし、マリア」という聖母への祈りを象徴しており、敬虔で崇高な響きを持ちます。曲の冒頭から「アヴェ・マリア」と呼びかけるため宗教的な歌と誤解されることもありますが、物語の情景を歌い上げた楽曲です。

舞台は16世紀のスコットランド。

身分を隠した国王ジャコモ5世(ウベルト)と反乱軍の娘エレナとの出会いから物語は始まります。ウベルトはエレナに一目惚れしますが、彼女には恋人マルコムがいると知り、彼女に指輪を渡し「困ったときは王にこの指輪を見せなさい」と告げて立ち去ります。

その後、反乱軍が鎮圧され、エレナの父ダグラスらは捕らえられます。エレナは指輪を持って宮殿に赴き、ウベルトに再会。ウベルトは自身が王であることを明かし、エレナの父の助命を許します。そして、エレナとマルコムの結婚を認め、全ての捕虜を解放するのでした。

エレンが聖母マリアに祈る「アヴェ・マリア」の場面は、父が捕らえられた際に彼の無事を願う情景として描かれています。

シューベルト『アヴェ・マリア(エレンの歌 第3番)』原曲歌詞と日本語訳

Ave Maria! Jungfrau mild,
Erhöre einer Jungfrau Flehen,
Aus diesem Felsen starr und wild.
Soll mein Gebet zu dir hinwehen.
Wir schlafen sicher bis zum Morgen,
Ob Menschen noch so grausam sind.
O Jungfrau,sieh der Jungfrau Sorgen,
O Mutter,hör ein bittend Kind!
Ave Maria!

アヴェ・マリア!やさしき乙女
お聞きください ひとりの娘の願いを
この険しく荒々しい岩山の上より
わが祈りがあなた様のもとへと届きますように
私共は安らかに眠ります 朝が来るまで
たとえ人々がどんなに残酷であろうとも
おお乙女よ、嘆きにくれるこの娘をご覧ください
おお聖母様、嘆願するひとりの子のことをお聞きください
アヴェ・マリア!

Ave Maria! Unbefleckt!
Wenn wir auf diesen Fels hinsinken.
Zum Schlaf,und uns dein Schutz bedeckt
Wird weich der harte Fels uns dünken.
Du lächelst,Rosendüfte wehen.
In dieser dumpfen Felsenkluft,
O Mutter,höre Kindes Flehen,
O Jungfrau,eine Jungfrau ruft!
Ave Maria!

アヴェ・マリア!穢れなきお方!
私共がこの岩場に伏して
眠るときも あなたの護りに包まれてさえいれば
この堅い岩も私共には柔らかく感じられることでしょう
あなたがほほ笑めば、バラの香りが漂います
この湿った岩の隙間にも
おお聖母様、この子の願いをお聞きください
おお乙女よ、この娘が呼びかけます
アヴェ・マリア!

Ave Maria! Reine Magd!
Der Erde und der Luft Dämonen,
Von deines Auges Huld verjagt,
Sie können hier nicht bei uns wohnen,
Wir woll’n uns still dem Schicksal beugen,
Da uns dein heil’ger Trost anweht;
Der Jungfrau wolle hold dich neigen,
Dem Kind,das für den Vater fleht.
Ave Maria!

アヴェ・マリア!清らかな乙女よ!
大地と空の悪魔たちも
あなたのやさしい眼差しの恵みに追われて
私共のところに住み着くことはできません
私共は頭を垂れて 運命に従いましょう
私共にあなたの聖なる慰めがあるならば
この娘に身をかがめられてください
この子、父のために願いをかける者の方へと
アヴェ・マリア!