クラシック名曲

ムソルグスキー 組曲『展覧会の絵』歴史と曲の解説

秋と言えば、「読書の秋」「スポーツの秋」「食欲の秋」、そして「芸術の秋」。

クラシック音楽そのものも、まさに「芸術」の一つです。そのクラシック音楽で、絵画という別の芸術を見事なまでに表現したのが、組曲『展覧会の絵』です。

「展覧会で色々な絵画を鑑賞している」イメージで聴くと、より一層楽しめる組曲となるでしょう。

ムソルグスキー組曲『展覧会の絵』が作曲された背景

組曲『展覧会の絵』は、ロシアのモデスト・ムソルグスキー(Modest Mussorgsky、1839-1881)により、ピアノ曲として1874年に作られました。

この組曲には、ムソルグスキーの友人であった画家のヴィクトル・ハルトマンが急逝し、その遺作展に赴いた際に歩いて鑑賞した10枚の絵画の印象を曲に表現した、という背景があります。

確かにこの組曲には、全体的にもの悲しい雰囲気が漂っていると感じる部分もあるかもしれません。

そしてこの組曲は、作曲はされたものの、ムソルグスキー本人が生きている間には演奏されることも、譜面が出版されることもなかったそうです。

この組曲を世間に広めたのは、原典版ではなく、フランスの作曲家ラヴェルの編曲版でした。もともとはピアノ曲として作られていたものを、ラヴェルがオーケストラ版に編曲したのです。1922年、フランスでラヴェル編曲によるオーケストラ版が演奏されことが、この曲が世界中で有名になる契機となりました。

ムソルグスキー組曲『展覧会の絵』の構成と特徴

『展覧会の絵』は、全10曲の「絵画を音で描いた曲」と、それらをつなぐ「プロムナード(散歩)」の主題で構成されています。展覧会の会場を歩きながら、さまざまな絵を鑑賞している様子が音楽で表現されているのが特徴です。

この作品の魅力は、各曲が独立しているにもかかわらず、全体として一つの物語のように感じられる点にあります。テンポや調性、曲調が巧みに配置され、重厚さとユーモア、静けさと躍動感が交互に現れることで、聴き手を飽きさせません。

また、ムソルグスキー独特のロシア的な旋律や、民族的なリズム感が随所に散りばめられているのも、この組曲ならではの特徴です。

プロムナード

『展覧会の絵』の看板ともいうべきフレーズのある「プロムナード」。ゆったりと展覧会の会場を歩く様子を表現したものです。
一番有名なこのフレーズ部分、実は、5拍子と6拍子を組み合わせた11拍子となっています。変拍子なのですが、そこに違和感を覚えさせないメロディライン。やはり曲の看板になるくらい、秀逸な要素が含まれているのだなと思います。

小人(グノーム)

「グノーム」とは土の妖精のこと。地中に住んでいて、鉱石や鉱脈を守っているとされています。可愛らしいというより、奇妙で少し不気味な印象のメロディです。奇怪な小さい土の妖精が、せわしなく動き回っている感じがします。

古城

8分の6拍子のリズムに乗り、低めの音で重厚なお城の様子が表現され、さらにそこに佇む吟遊詩人が詠っている姿が描かれます。メロディラインは、どこかの民族音楽を思わせます。古城が長い間経験してきた物語を、吟遊詩人が唄で語っている……そんな場面が目に浮かんでくるようです。

卵の殻をつけた雛の踊り

高い音域&速いテンポで、孵化したばかりの雛鳥たちがピーピー鳴きながら動き回る様子を表現した曲です。短い曲ですが、他の曲がどちらかと言うと重厚だったり哀愁を帯びていたりする傾向にあるので、途中にこの曲が入ると、余計に際立つ印象に。雛鳥がせわしなくダンスを踊っている光景が、音の旋律によって見事に表現されていると言えるでしょう。

バーバ・ヤガーの小屋

バーバ・ヤガーとは、スラブ民話に出てくる魔女のこと。曲は、冒頭かなり激しめで畳みかけるように鋭い低めの音が鳴り響き、魔女の小屋の怪しい雰囲気が直に伝わってきます。曲全体で、メロディに緩急はつくものの、奇妙でグロテスクな小屋の様子が描かれていきます。一部には、ハードロックを想起させるような激しいフレーズもあり、印象に残りやすい一曲です。

キエフの大門

「バーバ・ヤガーの小屋」から、そのまま続けて演奏する形で開始されるこの曲。組曲最後の曲になります。「プロムナード」のフレーズも交えつつ、しかし更に壮大でダイナミックなフレーズが展開され、まさに組曲の最後を飾るに相応しいと感じます。キエフに建てられる予定の大門の設計図をもとにして、作られた曲なのだそうです。大きな門の荘厳さが、力強い和音とフレーズの連続で表現され、終盤に向けて大きく盛り上がっていきます。そして、美しく重量感のある音の重なりと共に、終幕を迎えます。

他にも、子どもを描いた可愛らしい曲や、市場のせわしない様子を表現した曲などもあります。その合間に「プロムナード」が入ると、良い意味での小休止になります。

どの曲も個性豊かで聴きごたえがあるので、演奏時間の約35分もあっという間に思えます。
秋の夜長に、組曲『展覧会の絵』を通して音楽&絵画鑑賞してみては、いかがでしょう。