クラシック名曲

ヴィヴァルディ『四季』より 歌詞の意味・解説

アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi、1678-1741)により作曲された「四季」は、ヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』(Il cimento dell’armonia e dell’inventione)作品8」のうち、第1番目~第4番目の全4曲が該当します。

クラシック音楽の「四季」といえば、冒頭で演奏される「春」のフレーズが思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか。それほど有名な作品ですが、正式には「四季」という曲として作られたものではありません。第1番目から順に「春」「夏」「秋」「冬」。これら4曲を総称して「四季」と呼ばれています。

ヴィヴァルディ『四季』 曲の編成と構成

ヴァイオリン協奏曲として作られていますが、楽器の編成は、いわゆる普通の大規模オーケストラではありません。下記のような弦楽器中心の小規模なものです。

独奏ヴァイオリン、第1・2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音(チェロ・オルガン)。

※通奏低音というのは、いわゆる低音パート。主に曲に合わせて和音を奏でます。

「春」「夏」「秋」「冬」4曲それぞれ、第1~3楽章で構成されています。そして大きな特徴と言えるのが、ソネット。各曲に、14行ずつの詩(ソネット)が添えられているのです。このソネットを読みながら曲を聴くと、どんな風景や情景が表現されているのかが分かります。より曲への理解が深まり、親しみやすく感じられるのではないかと思います。

ヴィヴァルディ『四季』 各曲の解説

ヴァイオリン協奏曲ですから、当然、独奏者のヴァイオリンソロが随所にあります。基本的な曲の構成は、まず全体の合奏があり、その後ヴァイオリンのソロパート、再び合奏して終える……という形になっています。

「春」は、特に第1楽章のフレーズはとても有名です。暖かく明るい春の訪れを喜んでいるかのような、軽やかで華やかなヴァイオリンのハーモニーが展開します。ヴァイオリンの奏でるフレーズを聴いていると、小鳥の声や、やわらかく降り注ぐ陽光、草花や若葉の広がる風景などが感じられます。途中には、春の嵐らしき表現も。

全体的には、春の訪れを喜びお祝いしているような、明るくて美しいフレーズが中心です。この「春」が入学式などの式典でよく演奏されるというのは、改めて曲を聴いてみると納得できるような気がします。

続いて「夏」ですが、特に有名なのは第3楽章のフレーズです。まさに夏の暑い時期に遭遇する、激しい雷雨を表現しています。轟く雷鳴、吹き荒れる強風、打ちつける豪雨。最近は日本でもゲリラ豪雨が起こるので、第3楽章を聴くと、即座に豪雨の光景が浮かんできます。と同時に、この曲が作られた当時から、ヨーロッパではこのように激しい夏の嵐を経験していたのだな……とも思います。

第1楽章や第2楽章では、夏の暑さで人々や周りの自然も元気がなく、また夏の嵐を恐れる様子が描かれます。合間にハエや蚊がうるさく飛び交う場面も出てきます。夏のけだるさが伝わってくるようです。

次は「秋」。秋と言えば、収穫の秋・実りの秋が思い浮かびます。その収穫や実りを喜び祝うような、楽し気なフレーズが印象的です。お祝いに宴を催しダンスをしているかのような、リズム感も伝わってきます。「春」ほどではないですが、「秋」のフレーズもよく耳にする機会があるように思います。

そして、宴でお酒に酔いしれた人々が眠りにつく様子や、狩人が犬を連れて狩りをする場面も描かれます。全体的には「春」と同様に明るく前向きな雰囲気で、躍動感のあるフレーズを中心に展開していきます。

最後の「冬」は、第1楽章と第2楽章を聴くと、それぞれ耳にしたことがあると感じられると思います。第1楽章は、凍える寒さや激しい吹雪などの冬の厳しさをストレートに表現しています。独奏者のソロ部分のフレーズは特に印象的です。その後の全体の合奏部分も、弦楽器の厚みと深い響きがあり冬の荘厳さが伝わってきます。これと対照的なのが、第2楽章。暖かい暖炉で静かに過ごす、冬の室内の様子が描かれます。外の寒さとはかけ離れた、穏やかでゆったりとした時間と空間が広がり、ささやかな幸せも感じられます。

そして、第3楽章では氷の上を歩く様子が描かれ、冷たい北風に代わり近づいてくる春の気配を期待する想いが表現されて、終わります。

全体を通して、ヴァイオリンの持つ多彩な表現力がふんだんに散りばめられた曲であると感じました。独奏者と周りの演奏者との掛け合いも随所にあり、その部分も楽しめる要素かなと感じます。また、合間に聞こえてくるオルガン(チェンバロ)の音色も、いい具合にアクセントになっていると思いました。

何より、聴いていて各季節の情景が素直に浮かんでくる、本当に秀逸な作品だと思います。クラシック初心者にも聴きやすい、オススメできる曲の一つです。

ヴィヴァルディ『四季』 ソネット原文と要約

「春」

-第1楽章ー

Giunt’ è la Primavera e festosetti
La salutan gl’ Augei con lieto canto,
E i fonti allo Spirar de’ zeffiretti
Con dolce mormorio Scorrono intanto:
Vengon’ coprendo l’ aer di nero amanto
E Lampi, e tuoni ad annuntiarla eletti
Indi tacendo questi, gl’ Augelletti;
Tornan’ di nuovo al lor canoro incanto:

ー第2楽章ー

E quindi sul fiorito ameno prato
Al caro mormorio di fronde e piante
Dorme ‘l Caprar col fido can’ à lato.

ー第3楽章ー

Di pastoral Zampogna al suon festante
Danzan Ninfe e Pastor nel tetto amato
Di primavera all’ apparir brillante.

〔要約〕

春の訪れ。小鳥は歌い、そよ風が吹く。
春の嵐がやってくるが、嵐が静まると再び小鳥が歌い出す。
牧場では花が咲き、木々の葉の音がする。羊飼いは眠る。
陽気な調べに合わせ、妖精と羊飼いが春の空の下で踊る。

「夏」

ー第1楽章ー

Sotto dura Stagion dal Sole accesa Langue l’ huom, 
langue ‘l gregge, ed arde il Pino;
Scioglie il Cucco la Voce, 
e tosto intesa Canta la Tortorella e ‘l gardelino.
Zeffiro dolce Spira, mà contesa
Muove Borea improviso al Suo vicino;
E piange il Pastorel, perche Sospesa
Teme fiera borasca, e ‘l suo destino;

ー第2楽章ー

Toglie alle membra lasse il Suo riposo
Il timore de’ Lampi, e tuoni fieri 
E de mosche, e mosconi il Stuol furioso! 

ー第3楽章ー

Ah, che pur troppo i Suo timor Son veri 
Tuona e fulmina il Ciel e grandinoso
Tronca il capo alle Spiche e a’ grani alteri.

〔要約〕

焼けつくように照る太陽。人や家畜・植物は元気がない。
鳥たちは歌う。やがて風がふき、嵐が近づく。
羊飼いは嵐を怖れる。うるさくハエや蚊が飛び回る。
怖れていた嵐がやって来た。稲妻、雷鳴、雹。嵐が作物をなぎ倒す。

「秋」

ー第1楽章ー

Celebra il Vilanel con balli e Canti
Del felice raccolto il bel piacere
E del liquor de Bacco accesi tanti 
Finiscono col Sonno il lor godere. 

ー第2楽章ー

Fà ch’ ogn’ uno tralasci e balli e canti
L’ aria che temperata dà piacere,
E la Staggion ch’ invita tanti e tanti
D’ un dolcissimo Sonno al bel godere.

ー第3楽章ー

I cacciator alla nov’alba à caccia
Con corni, Schioppi, e cani escono fuore
Fugge la belva, e Seguono la traccia; 
Già Sbigottita, e lassa al gran rumore 
De’ Schioppi e cani, ferita minaccia
Languida di fuggir, mà oppressa muore. 

〔要約〕

実りの秋の喜び。人々は豊作を祝い、歌い、踊る。
お酒に酔った人々は、喜びに満たされ静かに眠る。
夜明けとともに、狩人が狩りに出かける。
獲物は逃げまどい、狩人と猟犬に追い詰められ倒れる。

「冬」

ー第1楽章ー

Agghiacciato tremar trà nevi algenti 
Al Severo Spirar d’ orrido Vento, 
Correr battendo i piedi ogni momento;
E pel Soverchio gel batter i denti;

ー第2楽章ー

Passar al foco i di quieti e contenti
Mentre la pioggia fuor bagna ben cento 

ー第3楽章ー

Caminar Sopra il giaccio, e à passo lento
Per timor di cader girsene intenti;
Gir forte Sdruzziolar, cader à terra 
Di nuove ir Sopra ‘l giaccio e correr forte
Sin ch’ il giaccio si rompe, e si disserra;
Sentir uscir dalle ferrate porte
Scirocco, Borea, e tutti i Venti in guerra
Quest’ é ‘l verno, mà tal, che gioja apporte.

〔要約〕

凍える雪の寒さ。人々は震え、足踏みする。寒さで歯がカチカチと鳴る。
家の中では、暖炉の前で静かに過ごす。外は雨。
氷の上を慎重に歩く。転んで氷が割れる。
扉を出ると風の音、南風、北風が相争う。これぞ冬。冬の楽しみ。