「行けわが想いよ黄金の翼に乗って Va pensiero」は、イタリアのジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi, 1813-1901)作曲のオペラ『ナブッコ Nabucco』(原題『ナブコドノゾール Nabucodonosor』)の第3幕第2場でヘブライ人たちによって歌われる合唱曲です。
イタリアでは「第二の国歌」と言われるほど、イタリア人に親しまれています。
この歌は、『旧約聖書』の『詩篇137』にある「バビロンの流れのほとりに座り、シオンを思って、わたしたちは泣いた」が題材となっています。
『ナブッコ』でもっとも有名な曲で、2006年のトリノオリンピックの閉会式でも演奏されました。
ヴェルディ『ナブッコ』の概要とあらすじ
『ナブッコ』は、旧約聖書の『エレミヤ書』と『ダニエル書』に基づいた戯曲『ナブコドノゾル』(1836年パリ初演)が原作です。
オペラ『ナブッコ』は、1842年にミラノのスカラ座で初演されました。当時28歳のヴェルディにとって3作目となるオペラは大成功でした。ヴェルディが亡くなり、改葬される際には、「行けわが想いよ黄金の翼に乗って」が群衆によって合唱されたといいます。

物語の舞台は、紀元前6世紀のエルサレムとバビロニア。
バビロニア国王ナブッコとその長女アビガイッレはエルサレムを攻撃しようとしていました。怯えるヘブライ人のもとへ、大祭司ザッカリーアが「こちらはナブッコの娘フェネーナが人質としているから安心しなさい」といいます。
そこへイズマエーレがやってきて、ナブッコの軍勢の到来を告げます。実は、イズマエーレとフェネーナは敵同士でありながら、恋仲となっていました。
そして密かにイズマエーレに想いを寄せていたアビガイッレは「自分の愛を受け入れたら民衆を助ける」ことを提案するのでした。しかし、イズマエーレに拒絶されてしまいます。ザッカリーアは人質のフェネーナに剣を突きつけ、軍勢に退くよう促しますが、恋人のイズマエーレが彼女を救います。当然、ヘブライ人たちはこの行為を裏切り者となじります。
ナブッコの宮殿にて。
「アビガイッレはナブッコと奴隷の子どもで、ナブッコはフェネーナに王位を譲ろうとしている」という事実を知ったアビガイッレは悲嘆に暮れ、自分が王になって復習することを神官たちに誓います。神官たちは「ナブッコ王が死亡したという情報を流すから、その間に王位を奪ってほしい」とアビガイッレをそそのかします。
一方、大祭司ザッカリーアは「フェネーナがユダヤ教に改宗した」と言って、ヘブライ人たちの怒りを静めました。

そこにアビガイッレと神官たちが現れ、フェネーナが持っていた王冠を奪おうとします。すると、死んだと思われていたナブッコが現れて、「私は王であり、神でもあるのだ!」と叫びました。そのときナブッコの王冠に雷が落ち、ナブッコは錯乱状態になります。その王冠をアビガイッレが拾い上げるのでした。
アビガイッレが王座につくと、「死刑の執行状」が手渡されました。そこに姿を現したナブッコは、怒りにまかせて「死刑の執行状」にサインをしてしまいます。そのなかにフェネーナの名前があることに気づき、アビガイッレに「娘を助けてほしい」と懇願したものの、聞き入れてはもらえません。
バビロニアの捕虜となったヘブライ人たちは、ユーフラテス川のほとりで祖国を想い「行けわが想いよ黄金の翼に乗って」を歌います。ザッカリーアはエルサレムの勝利とバビロニアの滅亡を予言します。
宮殿に監禁されていたナブッコは、娘のフェネーナが処刑されようとしていることを悟り、神を冒涜したことを悔いるのでした。そしてヘブライ側のユダヤの神に許しを請います。

ナブッコが正気に戻ったことがわかると、ナブッコは解放された娘を救って、王位を奪還することを誓います。
フェネーナとヘブライ人たちが処刑されようとしていたとき、ナブッコが現れました。そこでナブッコは、バビロニアの神を祀った偶像を壊すよう命じます。すると、偶像が自然と壊れていきました。ナブッコは「これは奇跡だ」として、ヘブライ人たちを釈放して祖国へ帰すことを宣言します。
この状況では自分に勝ち目はないと悟ったアビガイッレは毒を飲み、ナブッコとフェネーナに許しを請いながら息を引き取りました。ザッカリーアはナブッコのことを「王のなかの王である」と讃えて幕が降ります。
「行けわが想いよ黄金の翼に乗って」原曲歌詞と日本語訳
Va pensiero, sull’ali dorate;
va ti posa sui clivi, sui colli,
ove olezzano tepide e molli
l’aure dolco del suolo natal!
行け わが想いよ 黄金の翼に乗って
行け 小山や丘の上に横たわり
暖かくて柔らかい香りがするところへ
祖国の優しいそよ風よ!
Del Giordano le rive saluta,
di Sionne le torri atterrate…
Oh mia patria sì bella e perduta!
Oh membranza si cara e fatal!
ヨルダンの河岸に挨拶をするのだ
そして破壊されたシオンの塔にも…
おお あんなにも美しいのに失われたわが祖国よ!
おお あんなにも愛おしいのに不運な思い出よ!
Arpa d’ôr dei fatidici vati,
perché muta dal salice pendi?
Le memorie nel petto raccendi,
ci favella del tempo che fu!
運命を予言する預言者たちの金色の竪琴よ
なぜ柳に掛けられたまま黙っているのだ?
胸のなかの記憶に再び火をともしてくれ
過ぎ去った日々のことを話してくれ!
O simìle di Solima ai fati
traggi un suono di crudo lamento,
o t’ispiri il Signore un concento
che ne infonda al patire virtù!
もしくはエルサレムの運命と同じ
残酷な哀歌を口ずさむのだ
もしくは主による心地よい響きを起こすのだ
苦痛に耐える勇気を我々に呼び覚ますように!