引用:Wikipedia

「愛の死 Liebestod」は、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)作曲の全3幕のオペラ『トリスタンとイゾルデ Tristan und Isolde 』の第3幕で、イゾルデが腕の中で息絶えたトリスタンを前に歌う独唱です。

現世では結ばれなかった2人が、死によって永遠にひとつになるという、作品全体のテーマを象徴する曲です。

ワーグナー自身は、この曲を「愛の死」ではなく「変容 Verklärung」と呼んでいました。「愛の死 Liebestod」はもともと第1幕前奏曲のタイトルで、それを1867年にこの場面へ転用したのが、義父フランツ・リストによるピアノ編曲です。

この編曲が人気を博したことで「愛の死」という呼び名が広く定着していきました。

「愛の死」は、ワーグナーが初演に先立って演奏会で披露したことがあり、第1幕の前奏曲と組み合わせた形で、現在でも演奏会で独立して演奏されることがあります。

また、前奏曲に登場する「トリスタン和音」は、その独特な響きから音楽史上重要な和音として知られています。

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』の概要とあらすじ

『トリスタンとイゾルデ』は、1865年6月10日にミュンヘンのバイエルン宮廷歌劇場で初演されました。初演は、全曲が完成してから約6年後のことです。

ワーグナーは作曲だけでなく台本も手がけ、中世ヨーロッパに伝わる「トリスタンとイゾルデ」の物語をもとに作品をつくりました。

1859年に全曲を完成させますが、演奏の難しさなどからなかなか上演には至りませんでした。その後、ワーグナーを支援したバイエルン国王ルートヴィヒ2世の尽力により、ようやく初演が実現します。

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物語の舞台は、中世のヨーロッパ(アイルランド、コーンウォール、ブルターニュ)。

アイルランドの王女イゾルデは、マルケ王と結婚するため、船でコーンウォールへ向かっていました。船を率いるのは、マルケ王の甥である騎士トリスタンです。

かつてトリスタンは、イゾルデの婚約者モーロルトを決闘で倒して深い傷を負い、「タントリス」という偽名でイゾルデに治療してもらったことがありました。治療の途中で仇と気づいたイゾルデでしたが、殺すことができず、彼の命を救いました。

ところがトリスタンは、イゾルデを叔父マルケ王の妃にするため、再び彼女の前に現れます。屈辱と怒りを募らせたイゾルデは、トリスタンとともに死ぬことを決意し、侍女ブランゲーネに用意させた毒薬を「和解の薬」としてトリスタンに差し出し、自らも同じ杯から飲みます。

しかし、ブランゲーネが毒薬を媚薬にすり替えていたため、2人は激しい恋に落ちてしまうのでした。

イゾルデはマルケ王の妃となりますが、トリスタンへの想いを断ち切れません。王が狩りに出かけた夜、2人は密かに会い、愛を確かめ合います。

しかし、2人の関係を疑う騎士メーロトの密告により、マルケ王たちに密会の現場を見つけられてしまいました。

信頼していたトリスタンの裏切りに深く悲しむマルケ王に対し、トリスタンは何も答えられません。現世で結ばれることのない2人は、死によって永遠に結ばれることを望むようになります。

そんな中、メーロトが斬りかかると、トリスタンは自らその剣に身を投げ出し、重傷を負いました。瀕死のトリスタンは、故郷ブルターニュの城へ運ばれます。

イメージ:AI生成

イゾルデを待ち続ける中、彼女を乗せた船の到着を知ると、トリスタンは興奮のあまり自ら包帯をはぎ取ってしまいます。

駆けつけたイゾルデの腕の中で、トリスタンは最後の力を振り絞って彼女の名を呼び、息を引き取ります。イゾルデはショックで気を失ってしまいました。

そこへ、マルケ王を乗せた船が到着します。王は2人の関係を知り、結ばれることを許すためにやってきたのでした。

しかし、クルヴェナールはマルケ王一行を敵だと思い、メーロトを討ち果たします。
さらにクルヴェナール自身も、マルケ王の兵に斬られ、トリスタンのそばで息絶えます。

真実を知ったマルケ王は、すべてが手遅れだったことを嘆くのでした。

意識を取り戻したイゾルデは、息絶えたトリスタンを見つめながら「愛の死」を歌い、トリスタンとひとつになるかのように、その亡骸の上に崩れ落ち、物語は幕を閉じます。

「愛の死」原曲歌詞と日本語訳

Mild und leise
wie er lächelt,
wie das Auge
hold er öffnet —

穏やかに静かに
あの人が微笑む
なんと優しく
その瞳を開いているのでしょう

Seht ihr’s, Freunde?
Seht ihr’s nicht?
Immer lichter
wie er leuchtet,
stern-umstrahlet
hoch sich hebt?

皆さんにも見えますか?
見えないのですか?
ますます明るく
あの人が光り輝き
星の光に包まれながら
空高く昇っていくのが

Seht ihr’s nicht?
Wie das Herz ihm
mutig schwillt,
voll und hehr
im Busen ihm quillt?

見えないのですか?
あの人の心臓が
力強く膨らみ
その胸の中で
満ちあふれ、高鳴っているのが

Wie den Lippen,
wonnig mild,
süßer Atem
sanft entweht —

あの人の唇から
喜びに満ちて穏やかに
甘い吐息が
そっと漂っているのが

Freunde! Seht!
Fühlt und seht ihr’s nicht?

皆さん、見てください!
感じませんか?見えないのですか?

Hör ich nur diese Weise,
die so wundervoll und leise,
Wonne klagend,
alles sagend,

この調べが聞こえるのは
私だけなのでしょうか?
こんなにも美しく静かに
歓喜を切々と訴えかけるように
すべてを語りながら

mild versöhnend
aus ihm tönend,
in mich dringet,
auf sich schwinget,

穏やかにすべてをなだめながら
あの人から鳴り響き
私の中へと入り込み
舞い上がっていく

hold erhallend
um mich klinget?
Heller schallend,
mich umwallend —
Sind es Wellen
sanfter Lüfte?
Sind es Wogen
wonniger Düfte?

優しく響きながら
私のまわりを包んでいるのを
ますます明るい響きが
私を包み込んでいく
これはそよ風の波なのでしょうか?
それとも至福の香りの波なのでしょうか?

Wie sie schwellen,
mich umrauschen,
soll ich atmen,
soll ich lauschen?

それは大きく膨らみ
私のまわりに押し寄せてくる
私は息をすればいいのでしょうか?
耳を傾ければいいのでしょうか?

Soll ich schlürfen,
untertauchen?
Süß in Düften
mich verhauchen?

それを吸い込み
その中に沈むべきなのでしょうか?
甘い香りの中で
この身を消してしまえばいいのでしょうか?

In dem wogenden Schwall,
in dem tönenden Schall,
in des Welt-Atems wehendem All —

押し寄せる大きなうねりの中に
鳴り響く音の中に
世界の息吹が満ちる宇宙の中に

ertrinken,
versinken —
unbewußt —
höchste Lust!

溺れ
沈み
我を忘れて
この上ない歓喜の中へ!