『サウンド・オブ・ミュージック』2025年上演時
画像出典:https://www.mirvish.com/shows/the-sound-of-music
「My Favorite Things(私のお気に入り)」は、1959年にブロードウェイのラント=フォンタン劇場(Lunt-Fontanne Theatre)で初演されたミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック(The Sound of Music)』の劇中歌です。
リチャード・ロジャーズ(Richard Rodgers)作曲、オスカー・ハマースタイン2世(Oscar Hammerstein II)作詞により誕生したこの曲は、ミュージカル史を代表するスタンダード・ナンバーとして、世代と国境を越えて歌い継がれています。
「My Favorite Things 私のお気に入り」歴史と解説

『サウンド・オブ・ミュージック』のモデルとなったトラップ一家
画像出典:https://www.biography.com/movies-tv/real-von-trapp-family-sound-of-music?utm_source=chatgpt.com
『サウンド・オブ・ミュージック』は、オーストリアのトラップ一家の実話をもとに、1959年11月16日にニューヨークのラント=フォンタン劇場で上演されました。
脚本はハワード・リンゼイ(Howard Lindsay)とラッセル・クロウズ(Russel Crouse)が手がけ、開幕直後から高い評価を獲得。トニー賞では作品賞を含む6部門を受賞し、初演だけで1,443回のロングランを記録しています。
ワールドプレミアでマリア役を演じたメアリー・マーティン(Mary Martin)は「My Favorite Things」を情感豊かに歌い上げ、トニー賞主演女優賞を受賞。楽曲は彼女の代表的なレパートリーの一つとして語り継がれています。
映画版と世界的な広がり

映画『サウンド・オブ・ミュージック』のワンシーン
画像出典:https://daily.jstor.org/the-sound-of-music/?utm_source=chatgpt.com
1965年に公開された、ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews)主演による映画版『サウンド・オブ・ミュージック』は、アカデミー賞作品賞を含む5部門を受賞し、世界的な大ヒットを記録しました。
この成功をきっかけに、「My Favorite Things」は広く知られるスタンダード・ナンバーとして定着していきます。
ジャズの分野では、1960年にジョン・コルトレーン(John Coltrane)が発表した演奏が特に有名です。ソプラノ・サックスによるこのアレンジは、原曲のワルツをモーダルな即興演奏へと大胆に発展させたもので、以降のジャズ解釈に大きな影響を与えました。
その後も、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)やアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)をはじめ、多くのアーティストがカバー。現在ではクリスマスシーズンにも親しまれる定番曲の一つです。
日本でも映画公開を機に広く浸透し、「私のお気に入り」という邦題で知られるようになりました。舞台上演やテレビCMなどを通じて愛され、歌詞を知らなくてもメロディを口ずさめる人が多い楽曲だといえるでしょう。
楽曲の誕生と劇中での位置づけ

『サウンド・オブ・ミュージック』2023年上演時
画像出典:https://familyreviewguide.com/the-sound-of-music/?utm_source=chatgpt.com
「My Favorite Things」は、物語の中で登場人物たちの関係性が大きく変化する場面で歌われる楽曲です。
舞台は嵐の夜。雷鳴に怯えたトラップ家の子どもたちは、それぞれの部屋を飛び出し、家庭教師であるマリアのもとへ集まってきます。
出会って間もない彼女に対して、幼さゆえの警戒心からか、どこか距離を感じながらも不安を拭えず助けを求めている状態です。
そこでマリアは、恐怖を直接消そうとするのではなく、「自分の好きなものを次々に思い浮かべる」という方法で子どもたちの気持ちを切り替えようとします。
歌詞には、バラの花びらや子猫のひげ、銅のやかん、温かいウールのミトン、リボンで結ばれた包みなど、日常の中にあるささやかな「お気に入り」がリズミカルに並べられていました。どれも特別に贅沢なものではなく、手の届く範囲にある小さな喜びばかり。
やがて子どもたちはその軽やかな歌に引き込まれ、先ほどまでの恐怖を忘れたかのように笑顔を取り戻していきます。このシーンは、マリアが単なる家庭教師ではなく、子どもたちの心に寄り添う存在へと変わっていく転換点でもあるのです。
一見すると物語の大きな事件とは関係のない穏やかな楽曲ですが、「不安に直面したとき、意識をポジティブなものへ向ける」というシンプルな発想は、作品全体を貫く重要なテーマと深く結びついています。
「My Favorite Things 私のお気に入り」の意味

映画『サウンド・オブ・ミュージック』のワンシーン
画像出典:https://x.gd/Aqqc2
「My Favorite Things」を直訳すると、「私のお気に入りのもの(たち)」を意味する、日常的にも使われるフレーズです。
比喩や抽象表現を用いず、マリアの感情をそのまま表した、シンプルでわかりやすいタイトルとなっています。
歌詞に登場するのは、どれも特別な出来事ではなく、暮らしの中に存在するささやかな「心をなごませるもの」の数々。これらは単なる“もの”の列挙にとどまらず、優しく包み込むようなイメージとして、リズミカルに積み重ねられていきます。
楽曲はワルツの軽やかなリズムに乗せて言葉を連ねることで、不安や恐怖といったネガティブな要素をやわらかく受け止め、徐々にポジティブな気分へと導いていきます。
そのため、感情を無理に抑え込むのではなく、発想を切り替えていき心の状態を整えるという考え方だと推測できます。
「My Favorite Things 私のお気に入り」原曲歌詞と日本語訳
Raindrops on roses
And whiskers on kittens
Bright copper kettles
And warm woolen mittens
Brown paper packages tied up with strings
These are a few of my favorite things
バラの花びらに落ちる雨
子猫のひげ
ピカピカの銅のやかん
あたたかいウールのミトン
リボンで結ばれた茶色い包み
それが私のお気に入り
Cream-colored ponies
And crisp apple strudels
Doorbells and sleigh bells
And schnitzel with noodles
Wild geese that fly with the moon on their wings
These are a few of my favorite things
クリーム色の子馬
サクサクのアップルシュトゥルーデル
ドアベルとそりの鈴
ヌードル添えのシュニッツェル
月明かりの中を飛ぶ野生のガチョウ
それが私のお気に入り
Girls in white dresses with blue satin sashes
Snowflakes that stay on my nose and eyelashes
Silver-white winters that melt into springs
These are a few of my favorite things
白いドレスに青いサッシュの少女たち
鼻やまつ毛に降りかかる雪の結晶
春へと溶けていく白銀の冬
それが私のお気に入り
When the dog bites
When the bee stings
When I’m feeling sad
I simply remember my favorite things
And then I don’t feel so bad
犬に噛まれたとき
蜂に刺されたとき
悲しい気分のとき
ただお気に入りを思い浮かべるの
そうすれば気分も少し楽になる