『ノルマ』メトロポリタン歌劇場上演時
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「清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)Casta Diva」は、イタリアの作曲家ヴィンチェンツォ・ベッリーニ(Vincenzo Bellini, 1801-1835)によるオペラ『ノルマ Norma』の第1幕で、主人公ノルマが歌うアリアです。
ソプラノ歌手にとって最も難度の高いオペラの一つと考えられており、マリア・カラス(Maria Callas, 1923-1977)が得意とした難役としても知られています。
ベルカント・オペラの代表作の一つで、ベッリーニの代表作として現在も愛されています。
ベッリーニ『ノルマ』の概要とあらすじ

フェリーチェ・ロマーニの肖像画
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ノルマの台本は、オペラ台本作家フェリーチェ・ロマーニ(Felice Romani, 1788-1865)が、劇作家アレクサンドル・スーメ(Alexandre Soumet)の同名の舞台劇をもとに書き上げたものです。
初演は1831年12月26日、ミラノのスカラ座(Teatro alla Scala)で行われました。

ジュディッタ・パスタの肖像画
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前作『夢遊病の女(La sonnambula, 1831)』が成功したのち、ベッリーニとロマーニが再び組んで生み出した作品で、初演時にジュディッタ・パスタ(Giuditta Pasta, 1797-1865)が観客の前でノルマを披露しました。
第1幕 第1場(前半)

『ノルマ』サンフランシスコ・オペラ上演時/Photo Credit: Cory Weaver
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紀元前1世紀、ローマ帝国の支配下に置かれた古代ガリア(現在のフランス)。ドルイド教徒の聖なる森では、教徒の長オロヴェーゾに率いられたガリア人たちが、ローマからの解放を神々に祈りながら、反乱の機をひそかに待ち続けていました。
そこへローマ軍の指揮官ポリオーネが友人フラヴィオとともに現れます。
彼はかつて巫女長ノルマと密かに愛し合っていたものの、今ではその愛は冷め、若い巫女のアダルジーザに心を移したとフラヴィオに打ち明けます。
やがてノルマが姿を現し、神聖な儀式を執り行います。ここで歌われるのが、名アリア「清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)」です。
ノルマは月の女神へ祈りを捧げながら、ローマとの戦いはまだ時ではないと民衆をいさめます。
しかし彼女自身、敵であるはずのポリオーネと密かに愛し合い、すでに2人の子どもをもうけていました。この秘密は、侍女クロティルデ以外には知られていません。
儀式の後、森に残ったアダルジーザのもとへポリオーネが現れ、ローマへ一緒に逃げようと情熱的に迫ります。
巫女としての務めと恋心の間で葛藤したアダルジーザでしたが、ついにその誘いに応じてしまいます。
第1幕 第2場(後半)

『ノルマ』ロサンゼルス・オペラ上演時
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場面はノルマの住まいへ移ります。ノルマは侍女クロティルデの助けを借りながら、ポリオーネとの子どもたちを人知れず育てていました。
そこへアダルジーザが訪れ、「巫女の掟を破って恋をしてしまった」と打ち明け、許しを乞います。
同じく禁断の愛を知るノルマは深く同情しますが、その恋人がポリオーネだと知った瞬間、怒りと悲しみに打ちのめされます。
事情を知ったアダルジーザはポリオーネとの別れを誓い、自ら彼を説得しに行くと申し出ました。
しかしポリオーネは拒絶し、アダルジーザとともにローマへ向かう意志を曲げません。
絶望したノルマは聖なる盾を打ち鳴らし、ガリア人たちにローマとの開戦を宣言するのでした。
第2幕 第1場(前半)

『ノルマ』メトロポリタン歌劇場上演時
画像出典:https://www.nytimes.com/2023/03/05/arts/music/norma-la-traviata-met-oper-review.html
夜、眠る子どもたちをじっと見つめながら、ノルマは深い苦悩に沈んでいました。裏切りへの怒りと絶望から、我が子に手を下すことさえ頭をよぎります。
しかし無垢な寝顔を前にして、母の愛情がそれを押しとどめます。
そこへアダルジーザが戻ってきます。説得には失敗したものの、彼女はポリオーネを諦め、ノルマと子どもたちを支えたいと申し出ます。
苦しみを分かち合った2人は固い友情を確かめ合い、アダルジーザはもう一度だけポリオーネを説得しようと決意を新たにしたのです。
第2幕 第2場(後半)

『ノルマ』メトロポリタン歌劇場上演時/Photo Credit: Ken Howard
画像出典:https://www.theparisreview.org/blog/2017/10/20/norma-not-lie-believing-women/
戦いの準備を進めるガリア人たちのもとへ、思わぬ知らせが届きます。
アダルジーザを救出しようとして神殿に侵入したポリオーネが捕らえられたのです。
処刑の権限を持つノルマでしたが、かつて愛した相手をどうしても殺せず、2人きりになると「アダルジーザと別れるなら命は助ける」と告げます。それでもポリオーネはその条件を拒みました。
追い詰められたノルマは民衆の前に進み出て、「掟を破った罪人は、この私だ」と静かに宣言します。敵であるローマ人を愛し、子どもまで産んだことを自ら明かしたのです。
その気高い告白に心を打たれたポリオーネは自らの過ちを悔い、ノルマとともに死ぬ決意をします。ノルマは父オロヴェーゾに2人の子どもだけは助けてほしいと懇願し、父はその願いを受け入れます。
こうして手を取り合ったノルマとポリオーネは、炎の中へと消えていきました。
愛と裏切り、そして赦しの物語は、ここで幕を閉じます。
「清らかな女神」原曲歌詞と日本語訳
Casta Diva, che inargenti
Queste sacre antiche piante,
A noi volgi il bel sembiante
Senza nube e senza vel!
清らかな女神よ
この聖なる古き木々を
銀色に照らす方よ
その美しき顔を私たちに見せておくれ
曇りも 陰りもない顔を
Tempra, o Diva,
Tempra tu de’ cori ardenti,
Tempra ancora lo zelo audace;
Spargi in terra quella pace
Che regnar tu fai nel ciel.
鎮めておくれ おお女神よ
鎮めておくれ この燃える心を
鎮めておくれ 大胆な情熱を広めておくれ
天であなたが治めているその平和を
この地上にも広めておくれ