『主よ、人の望みの喜びよ』(Jesu, Joy of Man’s Desiring)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)の名作のひとつで、クラシック音楽史においても広く知られる作品です。この曲はバッハが1716年~1717年にかけて作曲したカンタータ『心と口と行いと生活で』(Herz und Mund und Tat und Leben)の一部として初演されました。
現在では、結婚式やクリスマスのシーズンを象徴する楽曲として愛され、多くの編曲やアレンジが行われています。その穏やかで温かい旋律は、宗教音楽としてだけでなく、日常の中でも人々の心を癒す存在となっています。
バッハ『主よ、人の望みの喜びよ』の概要と背景
この楽曲が含まれるカンタータ『心と口と行いと生活で』は、ドイツ・ライプツィヒの聖トーマス教会での礼拝で使用するため、バッハが音楽監督に就任した最初の年に書かれました。このカンタータは、イエス・キリストの誕生やその救いの恵みを讃える内容で構成されています。その中で、『主よ、人の望みの喜びよ』は第6曲目と第10曲目に配置されています。
カンタータ(伊: cantata、独: Kantate、仏: cantate)とは、単声または多声のための器楽伴奏付の声楽作品です。
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歌詞の元になったのは、17世紀のドイツ詩人マルティン・ヤーンの詩です。
その内容はキリストへの信仰と愛が反映されており、『主よ、人の望みの喜びよ』の歌詞も、イエスを人々の魂の喜びと救いの源泉として讃えるものとして、個人と神との深い絆が表現されています。
バッハはこの詩に感銘を受け、音楽でその信仰の世界をさらに深く描き出したと考えられています。
この曲は、バロック音楽の特徴を色濃く反映しており、豊かなハーモニーや複雑な対位法を駆使した美しい旋律が印象的です。そのため、『主よ、人の望みの喜びよ』は、単なる宗教音楽にとどまらず、「人の望みの喜び」として、イエスがこの世界に来られることを待ち望む感謝の念が曲全体を包んでいます。
『主よ、人の望みの喜びよ』の歌詞と日本語訳
・第6曲目
Wohl mir, daß ich Jesum habe,
O wie feste halt’ ich ihn,
Daß er mir mein Herze labe,
Wenn ich krank und traurig bin.
Jesum hab’ ich, der mich liebet
Und sich mir zu eigen giebet,
Ach drum laß’ ich Jesum nicht,
Wenn mir gleich mein Herze bricht.
私にとって幸いなことに、イエスがいる
どんなに強く彼を抱きしめていることか
彼が私の心を癒してくれるから
私が病気で悲しいとき
私はイエスを持っていて、私を愛してくれる
そして私に自分自身を捧げてくれる
ああ、だから私はイエスを離さない
たとえ私の心が壊れそうになっても
・第10曲目
Jesus bleibet meine Freude,
Meines Herzens Trost und Saft,
Jesus wehret allem Leide,
Er ist meines Lebens Kraft,
Meiner Augen Lust und Sonne,
Meiner Seele Schatz und Wonne;
Darum laß’ ich Jesum nicht
Aus dem Herzen und Gesicht.
イエスは私の喜びであり続ける
私の心の慰めと潤い
イエスはすべての苦しみから私を守る
彼は私の生命の力
目の前の喜びと太陽のような存在
私の魂の宝であり歓喜
だから私はイエスを離さない
この心と視界から